修復歴や事故歴を隠して売ることはできる?

車の修復歴や事故歴を隠して売れる?

車の買取査定に大きな影響を与える要素として挙げられる修復歴。修復個所や程度によっては基準額から30~40%も減額されるほどのインパクトを持ちます。

それだけに修復歴ありになってしまうような修理は避けたいものですが、車に乗っている以上100%事故を防ぐ方法は存在しません。どんなに気を付けていても運が悪ければ修復歴車になってしまう恐れがあるのです。

そんな査定額が大幅に減額される修復歴。それだけに車の買取査定の時に修理のことを黙っている人が後を絶ちません。しかし黙っていたからといって修復歴や事故歴はバレずに済むものなのでしょうか?

事故=修復歴ではない点に注意

まず最初に、修復歴や事故車の定義について軽く触れておきます。

というのも、修復歴や事故車について勘違いしている人が非常に多いからです。これを知っておかないことには修復歴や事故歴を隠す・隠さないを語ることはできません。

修復歴車の定義

「修復歴」のことを「板金などで修理したことがある車」と思っている人が相当数にのぼりますが、これは大きな間違い。修復歴とは下図の部位を修理・交換したことがある車を指します。

車の修復歴の定義

裏を返せばこれら以外の修理をどんなに行おうが修復歴車とは呼ばないことに。ドアやフェンダー、ボンネットなどを板金したり交換したりしたところで修復歴にはならないのです。

この記事の趣旨である「修復歴を隠して買取査定をしてもらう」というのは、上図骨格部分を修理・交換している車を指しています。

事故車の定義

世間一般に使われている「事故車」という言葉。これは“修復歴車”に比べかなりあいまいな言葉と言わざるを得ません。

なぜなら、修復歴は定義がしっかりとしているのに対し“事故”というのは非常に曖昧だから。ちょっとこすっただけの物損事故でも“事故”ですし、車の原形をとどめないほど損傷しても“事故”です。

車の中で練炭自殺したり水没したりした車も事故車扱い。「事故」という言葉の範囲があまりにも広いため、事故車が何を指しているのかについては人によって受け取り方は様々。

ただし、車業界においての事故車の定義は=修復歴となっています。そのため、この記事での“事故車”は修復歴ありの車と受け取ってください。

修理の後を見抜くプロはどこを見ている?

車を買取査定する査定士がどういったところを重点的に見ているのか知ることで修復歴を隠せるかどうかが見えてくると思います。

査定士が修復歴や事故歴を見抜くのは以下のようなところを見ているから。

再塗装の有無

修理などで板金塗装をした場合、普通の人が見ても再塗装されているかどうかなんてわかりませんよね。それはしっかりと色が合って、かつ均一に綺麗に塗られているから。

しかしプロであれば塗装したかどうか比較的簡単に見分けがつきます。

その理由のひとつは元の色と完全に一致した色は作れないということ。プロの板金屋が長年の経験や機械による分析をもとに色を合わせますが、それでも元の色と全く同じものは絶対に作れないのです。

場合によっては素人がパッと見ただけでも「なんか色が違う」と感じることもあるほど。きっちり色合わせしたものでもプロが見れば違いを見抜く可能性が高いといえます。

再塗装を見抜くもうひとつの方法は「」。

一般的に塗装に失敗してボコボコしてしまった塗装面を「ゆず肌」と呼びます。しかし新車も微妙なゆず肌なのです。滑らかかつ均一ながらも微妙なゆず肌…これが新車の塗装の証でもあります。

この微妙なゆず肌を再塗装で再現するのは非常に難しく、荒くなってしまったり、逆に磨きすぎてツルツルになり過ぎてしまったり…といったことが起きるのです。

ドア1枚を板金塗装した場合、車の後方から塗装面に光や景色を映し込みながら見る角度をゆっくり変えていくと、肌の状態が違うことが浮き彫りになります。

また、再塗装では塗りむらや下地処理の甘さなどにより塗装面に微妙な波打ちが出ることも。プロの査定士はこういった点を見逃さないのです。

まず最初に塗装面を様々な角度から見ることで板金や交換した部分にあたりを付け、その部分に修復歴がないか重点的に調べることになります。

ちょっとした傷や凹みでも塗装することがあるため、再塗装していたからといって修復歴があるとは限りませんが、怪しい場所を見つけるという点において塗装面は重要な役割を果たします。

パネルを外した跡

ドアパネルのヒンジを外した跡

車は様々なパネルによって構成されています。ドアパネル、フェンダー、ボンネット、トランク、バンパーなど。

新車組み立て時、一部車種を除きバンパー以外はパネルを取り付けてから塗装するため、それらを固定するボルトやナットも一緒に塗装されます。そのためパネルとボルト・ナットの塗装面はほぼ一体化することになるのです。

そんなボルトやナットを工具で回したら…必ず跡が残り、一体化した塗装面も完全に分離してしまうことに。

そういった部分はパネルの交換を行わない限り手を付けることはほとんどありません。裏を返せばボルトやナットを回した後があるということは高確率で何らかの修理が行われたことを意味します。

もちろんパネルを外したり交換したりしたからといって修復歴があるとは限りません。しかし修復歴が隠れている可能性が高い場所であるのもまた事実なのです。

シーリングの状態

シーリングの状態で修復歴を見抜く

車の骨格部分というのは複数のパーツを組み合わせています。そういった部分は溶接などによって確実に結合されており、さらに水が入り込まないようにシーリング(シーラー)処理されていることが多くなります。

このシーリング剤、車種やメーカーによってその打ち方は様々。場所によっては手作業になることもあるため、新車においても1台1台異なるなんてことも。

とはいえ基本的にシーリング材の状態は左右対称になります。手作業の部分であったとしても同じ人間が行うため左右ともほぼ同じ塗り方になります。

しかし、後から修理をしてシーリング剤を塗り直した場合は違います。修理工場の人間が手作業でその部分をシーリングするため、新車の塗り方とは異なってしまうのです。

また、新車に使用されているシーリング剤と異なるため色や質感が異なることも。片方は経年劣化でくすんでいるのに、もう片方は綺麗な状態であれば高確率で修理が行われていると判断します。

ボディの骨格部分でシーリング剤を使用する部位というのは修復歴に直結するため、特に重点的に調べる部分でもあります。

フレーム修正機の痕跡

フレーム修正機の跡

事故により車の骨格部分が歪んでしまった場合、フレーム修正機を使用し正確な寸法に戻す作業が行われます。これにより大きく損傷した車でも実走行に支障のない状態に戻すことができるのです。

しかし、フレーム修正機は車を固定した上で引いたり押したりすることで修正する都合上、固定のために使われるクランプの跡がどうしても残ってしまいます。

修正跡が残る場所として一般的なのはボディ底部の“耳”の部分。ジャッキアップポイントがある場所といえば分かりやすいでしょうか。

サーキット走行によってボディが歪んでしまった場合など、事故を起こさなくてもフレーム修正機にかけるケースも存在します。しかしフレーム修正機の跡があれば事故の有無に限らず100%「修復歴あり」になります。

骨格部位の歪み

フレーム修正機や板金作業によってしっかりとした修理が行われたとしても、骨格部分に微妙な歪みや波うちが残る場合があります。フレーム部分はもちろん、ピラーやトランクパネルなど。

こういった部分に歪みがある場合は修復歴を疑い、その周辺をくまなくチェックします。

チリ(パネル間の隙間)は参考程度に

車のチリ(隙間)は参考にしかならない

中古車の修復歴や事故車を破断するための材料としてよく見聞きするのが「パネル間のチリ(隙間)を見る」というもの。ドアとフェンダーの隙間やボンネットとフェンダーの隙間が代表的。

無事故車であれば左右対称のボディに精密に加工されたパネルが取り付けてあることになりますから、チリが左右対称なのは当たり前という発想なのでしょう。

しかしこれ、ハッキリ言ってあまりあてになりません。なぜなら新車においても左右でそれなりの違いがあったりするからです。

車の骨格部分というのは左右対称が理想なのは言うまでもなく、メーカーもそれに限りなく近い形で製品化しています。しかし複数のパーツを組み合わせる都合上どうしても“個体差”ができてしまうのです。その個体差はボディほどでないにしろパーツ一つひとつにも存在します。

それらを組み合わせるのですから、どうあっても左右対称にならないケースが多くなります。新車製造時に微調整を行いできるだけ左右対称のチリになるよう組み立てますが、それも限界があるのです。

ディーラーなどに行った際は展示してある新車をよーく見てみてください。左右の隙間が違うもの、隙間の幅は一緒でも高さが違うものなどがゴロゴロしています。

新車でもこの状態なのですから、走行によって微妙な歪みが発生している車のチリが完全なる左右均等であるはずはありません。

ご自身の乗っている車の左右のチリが異なり「事故車を疑われないかな?」「もしかして事故車を掴まされた?」と不安に思っている方。1、2mmのチリの違いは普通にあることなので心配する必要はありません。

もちろんプロの査定士もそれは重々承知しているので、査定時にチリなど見ていません。事故車かどうかの判断にチリは重要な意味を持たないのです。

…まあ、左右や上下で4~5mm違えばさすがに「おかしい」となりますけどね。

修復歴をごまかすのはほぼ無理

塗装面やボルトナット、シーラー、歪みなどなど、様々なところから修復の痕跡を探し出すプロの査定士。それだけに修復歴の発見率は98%にのぼるとも言われています。

そのため、車の素人が修復歴を隠して高く売ろうと考えるのは諦めたほうがいいといえるでしょう。

しかし裏を返せば「2%は修復歴を見逃している」ということにも。

ゆえに「綺麗に直っているっぽいから」「知人の車屋に見せたら修復歴に気付かなかった」などの理由により修復歴を隠し通せると考える人もいるかもしれません。しかしそれは甘い判断です。

「2%は見逃している」といっても、それは店頭での査定や出張査定時に限った場合の話。買い取った車はオートオークションに出品する前に別の部署で再び詳細な査定が行われるのです。

仮に最初の査定で修復歴が見逃され高い査定額が引き出せたとしても、後の査定でバレたら大幅に減額されたうえで差額を請求される可能性が高くなります。場合によっては損害賠償請求されることも。

車の売買契約には瑕疵担保責任があり、修復歴を隠して売ることは禁じられています。これは中古車販売業者はもちろん、個人が買取店に売却する場合においても同様。

修復歴を隠したとしてもバレる可能性は限りなく高く、仮に初回の査定で見逃されたとしても後々トラブルになるリスクが付きまといます。

修復歴や事故の有無を聞かれた場合は正直に申告したほうが無難でしょう。

修復歴車や事故車とバレずに済む可能性も

修復歴を隠せる可能性も

一般的に修復歴というのは何らかの形で残ってしまうもの。ゆえに査定士の目を欺くことは非常に難しいと言わざるを得ません。

しかし、非常に腕の良い板金屋が修復歴を隠そうとすれば、プロの査定士といえど見逃してしまう可能性が高くなります。

例えばパネル交換の際に回したボルトやナットを再塗装したり、フレーム修正機の使用により付いたクランプの跡を板金塗装で消してしまったり、新車のシーリングと見分けがつかない修理を行ったり…

塗装技術が高い板金屋の場合、新車のゆず肌を再現しつつ“ぼかし”を入れることでプロの査定士が見ても気付かないこともあります。

技術力が高く、かつ修復歴の痕跡を意図的に隠そうとする板金屋が修理をした場合、査定士が修復歴を見逃してしまうことも十分考えられるのです。

ただし、ここまでの修理を行うには相応の費用がかかります。一般的な板金屋は作業工程を減らし効率化することを優先するため、自発的にこういった修理を行うことはありません。

つまり、事故を起こした際に腕の良い修理工場や板金屋に自分で車を持ちこんだうえで、「修復歴が分からなくなるような修理をお願いします」とでも言わない限り、こういった過度な修理は行われないのです。

もちろんそれは普通の修理に比べかなり割高になるでしょう。しかしそれでプロの査定士を欺ける補償はありません。そこまでしたところで大半のケースでは修復歴があるとバレてしまうでしょう。

修理の際にお金に糸目をつけず“修復歴の証拠”を消すよう依頼すれば、後の査定で修復歴車や事故車とバレない可能性は高まります。しかし「高まる」といっても2%の見逃し確率が10%になる程度。コスパは最悪です。

そこまでして隠す理由は見当たらない…というのが結論になるでしょうか。

後に修復歴が発覚しても差額を請求されないケースも

買取や下取りが成立した際の契約書には、修復歴を隠すなどし後の査定により明らかな瑕疵が見つかった場合には、売主に対し差額を請求したり売買契約を破棄したりできるといった文言が盛り込まれています。

とはいえ、差額を請求されない場合も多々あるというのが実情なのです。

隠ぺいが悪質かつ大幅な減額を余儀なくされる重大な修復歴が見つかった場合においては、後に差額を請求されたり買取自体をキャンセルされたりする可能性が高いでしょう。

しかし、元々が中古車で修復歴を隠ぺいする意図はなかったケースや、事故歴について査定士に聞かれなかった場合、修復歴が軽微である場合は業者の泣き寝入りで済むことが多いのです。

そもそも、査定士はユーザーの情報なしにきっちりと評価できてこその査定士。まして修復歴という重大事案を見逃すなど恥以外の何ものでもありません。

そのため、金額的な損失が軽微である場合は仮に修復歴が見逃されたとしてもそのままになるケースも。だからといって意図的に修復歴を隠していい理由にはなりませんけどね。

自分から言う必要はないが…

車買取業者やディーラーの査定を受ける際、こちらから「事故によって〇〇を修理しました」と申告する必要はありません。そんなこと聞かずともきっちりと見抜くのがプロの査定士ですからね。

しかし、買取業者によっては査定する前に事故や修理の有無を尋ねてくる場合があります。そういった時はちゃんと申告するべきでしょう。

なぜなら、嘘をついた記録が残ると仮に修復歴がバレなかったとしてもその後の査定で表面化する可能性が高く、そうなった場合は大幅な減額により差額を請求されたり、買取自体をキャンセルされたりする恐れがあるからです。

また、「事故はしていない」と偽ったものの修復歴が発覚した場合、心象の悪さから通常の減額幅よりさらに安い査定額を提示される可能性があります。

プロの査定士といえど人間である以上、相手の印象により査定額を増減することは十分考えられるのです。

今乗っている車が中古車として買ったものであれば「自分が乗っている間は事故を起こしてないが、前オーナーの事故歴に関しては分からない」で押し通すこともできますが、新車で購入したのであれば素直に申告すべき。

もちろん“聞かれたら”の話ですが。

事故歴や修復歴について聞かれず、かつ査定士が修復歴を見逃したのであれば、正確に査定できなかったうえ事故歴の有無を確認しなかった業者に問題があります。

しかし事故歴について聞かれてもなお「事故はしていない」と答えてしまうと意図的に隠したことになってしまい、瑕疵担保責任にもろに抵触してしまいます。明らかにこちらが不利なのです。

聞かれなかったら何も言わない、聞かれたら素直に答える。これが結論。

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